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アトピー性皮膚炎

目次

Introduction

 アトピー性皮膚炎(湿疹)の治療は、ステロイド外用薬を中心とした抗炎症治療が基本です。しかしステロイド外用薬は副作用のある薬であるため、多くの医療機関において湿疹のあるところに少量を外用し、湿疹が改善したらすぐに中止する、というように指示されています。けれどもこのような「従来治療」では湿疹がよくなっても、外用薬を中止すると再燃してしまう(ぶりかえす)ケースが多いです。これは湿疹が一見改善したように見えても、外見上ほとんどわからないレベルで皮膚の炎症が持続しており、薬を急に中止することで皮膚の炎症が再燃してしまうためです。

 当院では湿疹の改善後もしばらく計画的にステロイド外用薬を使用し、湿疹が再燃しないように徐々に外用頻度を減らしていく新しい治療法「プロアクティブ療法」を行っています。適切に治療をすれば、大半の患者さんは最終的にはステロイド外用薬を中止できる、あるいは最小限の使用(週1,2回のステロイド外用)のみでコントロールすることができるようになり、ステロイド外用薬による副作用も最小限にとどめることができます。

 当院では初診時に今までの経過について問診をし、皮膚の隅々まで診察をすることで湿疹の程度や範囲を把握します。さらに必要な患者さんには新しい湿疹マーカーであるTARC(血液検査)の測定もします。そのうえで最終的に患者さんがアトピー性皮膚炎から脱出するための、ゴールを見据えた治療法を提案させていただきます。

アトピー性皮膚炎の原因

 アトピー性皮膚炎の発症には遺伝的な要因と環境要因の両方が関与しています。遺伝的な要因には乾燥肌アレルギー体質の2つの素因があります。

乾燥肌について

 我々の皮膚の一番外側の部分を表皮と言います。この表皮の外側の部分は角質といい、垢になって剥がれ落ちていく部分です。角質は皮膚の外にある細菌などの異物から体を守るバリアの役目をします。また内側の生きている細胞から水分が蒸発してしまわないように水分保持の役目もします。

 乾燥肌のヒトは生まれつき角質のバリア機能や水分保持能力が弱いヒトです。そうすると外界からいろんな異物が皮膚から入って来やすくなるため、体は免疫の力で守ろうとします。血液の中にある白血球がパトロールの役割をしており、この異物が侵入しようとした皮膚に集まってきます。これが湿疹の始まりです。乾燥肌のヒトは皮膚の炎症が起きやすい素地があると言えるでしょう。

アレルギー体質について

 先ほどの白血球ですが、もう少し詳しく言うと白血球の中のリンパ球という細胞がメインとなります。このリンパ球には、Th1とTh2というグループのリンパ球があります。Th1リンパ球は主に病原体と戦う細胞で、Th2リンパ球はアレルギー反応を起こす細胞です。Th1とTh2リンパ球がうまくバランスを保っていると特に問題が起きないのですが、アレルギー体質の人はTh2リンパ球が増えやすい傾向にあります。乾燥肌のヒトの皮膚にはリンパ球が集まってきやすい素地があり、さらにアレルギー体質が加わると皮膚の中でTh2リンパ球が増えやすくなります。皮膚の中で増殖したTh2リンパ球はIgEという抗体を作り、さらにいろんなものに対してアレルギー反応を起こすような体質に変えていきます。

 乾燥肌から皮膚にリンパ球が集まって湿疹を作る→Th2リンパ球が増えて、いろんなものに対してアレルギー反応を起こすようになる→アレルギー反応でさらに湿疹が悪化するという悪循環ができます。近年Th2リンパ球がどのくらい暴れているか調べる血液検査が登場しました。TARC(ターク)といいます。アトピー性皮膚炎で困っている人は炎症の強さの目安としてTARCの測定をすることは有用です。

湿疹そのものがアレルギーの原因

アトピー性皮膚炎の治療において、アレルゲン回避の重要性がよく強調されています。湿疹がなかなか治らないため、ダニ・ハウスダスト・花粉・カビ・ペット・食べ物などのアレルギー検査が行われます。これらの項目に反応があった場合は掃除の徹底や食事制限がよく指示されますが、こういったアレルゲン回避中心の治療では、なかなか湿疹は治りません。これは上にも示したように、湿疹そのものが様々なものに対するアレルギー反応を作り出しているためです。根本の湿疹そのものの治療をおろそかにして、二次的に生じたアレルギー反応への対処を優先しても治療はうまくいきません。

治療

 ①悪化要因への対策、②スキンケア、③抗炎症治療の3本柱が基本です。特に③の抗炎症治療が最も重要です。

治療①悪化要因への対策、基本的な生活習慣

 上に湿疹そのものの治療が大切と記載しましたが、明らかな悪化要因がある場合はできるだけ回避することも重要です。悪化要因は個人によって異なりますが、ホコリっぽいところに行くと痒くなる、ペットと接触すると痒くなる、汗をかくと痒くなる、特定の食品を食べると湿疹が悪化するなど、明らかな悪化要因があれば避けるべきです。そして基本的な生活習慣を守ってもらうだけで結構です。極端なことは必要ありません。

 下に基本的な生活習慣の注意について記載しておきます。

睡眠

規則正しい睡眠、早寝早起き

食生活

3食の時刻がある程度一定していること、油脂類、糖分、食品添加物を控えめにした食事、肉よりも魚、緑黄色野菜を重視した食事を心がける。間食は控えめに、腹八分目。

住環境

室内を整理整頓し、1週間に1-2回の丁寧な掃除。換気をよくし、冬の結露などでカビが発生しないように注意。室内でのペットの飼育は避ける。 

衣類

皮膚への刺激になる素材をさけ、汗をよく吸い取ってくれるものを着用。うなじのラベル、ブラジャーのワイヤーなど、衣類の付属品が皮膚を刺激してかゆみの原因になっている場合もあるので注意。

適度な運動
入浴

ぬるめの湯にゆっくり入浴して発汗を促す。体を洗うときは皮脂を取りすぎないよう、乾燥肌むけの洗浄剤を泡立てて、やさしく手で洗う。

治療②スキンケア

 アトピー性皮膚炎のヒトはもともと乾燥肌の人が多いですから、皮脂を取りすぎてしまうことはよくありません。過度に洗わない、ナイロンタオルのようなもので体をゴシゴシこすらないなどが対策です。また適度な運動も皮膚の水分量を増やしてくれるのでいいでしょう。こういったことをしていても、どうしても乾燥してしまう人は保湿剤を塗ることで補ってあげるとよいです。

治療③抗炎症治療

 アトピー性皮膚炎(湿疹)に対する治療はステロイド外用薬を中心とした抗炎症治療が最も重要です。当院では「どの範囲に」、「どの薬を」、「どのように」、「いつまで塗る」ということを具体的にお伝えしています。「ぬりかた表」を患者さんへお渡ししており、塗り方も実演でお伝えしています。そのため初診時には患者さんの頭皮を含めた全身を確認するようにしており、湿疹の全体像を把握してから外用部位を決定しています。頭が痒い、フケが目立つなどの症状があっても無治療のまま見逃されていることが多いですが、全身の湿疹を一気に治療しないといけません。

 Introductionでも記載したように、湿疹の改善後もしばらく計画的にステロイド外用薬を使用し、湿疹の再燃をさせないように徐々に外用頻度を減らしていく新しい治療法「プロアクティブ療法」を当院では行っています。

 下の図を参考にしてください。①一気に湿疹をゼロの状態にします。②きれいになってもダメ押しで外用治療を継続して、外見上はわからないような皮膚の炎症をできるだけ小さくしておきます。③ステロイド外用薬を徐々に減らしていきます。ステロイド外用薬は週2回程度の外用頻度では、ほとんど副作用が出現しないと言われています。まずはこの週2回を中間ゴールとして目指すのです。長期間、週2回の外用で皮膚がきれいな状態を維持できれば週1回、さらにステロイド外用薬の中止、とさらなる減量・中止を目指していきます。

 アトピー性皮膚炎は皮膚の中でTh2型リンパ球が増殖してくる病気です。一見きれいな皮膚に見えても、外見上わからないようなレベルの皮膚炎症が持続しており、それに対して外用治療をきちんとすることがポイントです。一見きれいに見えるような皮膚であっても、触るとブツブツ、ザラザラしているような皮膚であれば、治療が不十分である可能性が高いです。

従来法とプロアクティブ療法の比較

ステロイド外用薬の副作用

 ステロイド外用薬には副作用があり注意が必要ですが、過度に恐れられている傾向があります。通常の使用では皮膚局所の副作用が出現することがあっても、全身的な副作用が出現することはありません。

 最大の副作用は長期間使用することで、皮膚が薄くなってしまうということです。見た目に皮膚が薄くなってくる、血管が透けて目立つようになる、ひどいと妊婦さんの肉割れのように皮膚に亀裂が入ってしまうなどです。他にも毛が濃くなる、赤い皮膚になる、思春期以降だとニキビができてくるなどがあります。

 こういった副作用はステロイド外用薬を数か月から年単位で毎日のように外用し続けることで、徐々に現れてくるものです。数日から1ヶ月程度の外用などで、すぐに現れてくるものではありません(ニキビは1ヶ月以内など比較的短期間の使用でも出現することがあります)。またこういった副作用の多くはステロイドの外用頻度を減らす、中止するなどで徐々に回復してきます。

アトピー性皮膚炎の早期発見、食物アレルギー予防

湿疹そのものが食物アレルギーなどの他のアレルギーを生み出し重症化させることが近年わかってきました。特に乳児期早期から始まったアトピー性皮膚炎(湿疹)はしっかりコントロールをしておかないと、高率に食物アレルギーを合併します。赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を早期からコントロールすることは、その子の人生におけるアレルギー重症度を決定づけると言っても過言ではありません。
乳児湿疹や脂漏性皮膚炎と言われている患者さんの中にはアトピー性皮膚炎の患者さんが数多く認められます。赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の多くは、頭や顔から始まり、首・胴体・腕や足へと順に拡大していきます。首より下まで湿疹が拡大しているケースではアトピー性皮膚炎の可能性が高く、早期に専門家の診察を受けることをお勧めします。

重大な合併症

 アトピー性皮膚炎で特に気を付けないといけないのが目の合併症です。顔面重症例に多いのですが、白内障や網膜剥離といった重大な目の疾患を引き起こします。掻くと皮膚を傷つけるため、皮膚を叩いたり擦ったりする患者さんもおられるかと思います。しかし顔(特に目の辺り)にこういう対処をしていると、白内障や網膜剥離を引き起こし、最悪の場合は失明してしまいます。重症例では就学時にすでに目の合併症が出現しているケースもあります。

ニキビ(ざ瘡)

マルホのホームページより

 ここでニキビについても少し解説します。ニキビは思春期以降に皮脂分泌が盛んになり出来始めることが多いですが、アトピー性皮膚炎でステロイド外用薬を顔などに外用することで現れることもあります。湿疹コントロールを良好にしてステロイド外用薬の減量ができたらニキビも次第に出来にくくなる方も多いですが、ニキビも一緒に治療しないといけない患者さんもおられます。

 ニキビの原因ですが思春期以降、皮脂分泌が盛んになることで毛穴が目詰まりし、白ニキビ(コメド)ができるようになります。そこにアクネ菌が増殖してくると赤ニキビとなって腫れ上がってしまいます。

 ニキビの治療はまず1日2回、石けんで洗顔することです。それでも改善しない場合はニキビ用の外用薬を使用します。外用薬にも何種類かタイプがありますが、よくニキビに対して処方される抗菌薬は赤ニキビにしか効果がありません。大切なのは白ニキビができないようにすることです。それには角質を薄くするタイプの外用薬をきちんと使用しなくてはいけません。

 ニキビがひどい状態が続くと、いわゆるニキビ跡になってしまいます。ニキビ跡ができてしまったら、ある程度目立たなくすることはできても完全に治すことができません。ニキビがひどくならないうちに、しっかり治療することが望ましいでしょう。

アトピー性皮膚炎について、もっと知りたい方には環境再生保全機構のパンフレットがお勧めです。

環境再生保全機構のパンフレット(PDF)

ニキビについて詳しく知りたい方はマルホのホームページを参考にしてください。

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